裁判映画に秀作が多い。犯罪は、それ自体異常であり、
エクサイティングなものである。さらに加害者、被害者の性格
や人間関係を俎上に乗せ、何故犯罪にまで発展したか?
人間の欲望や性向そして社会の歪が判るからである。
訴訟制度の矛盾をテーマにすることも多い、訴訟制度の
中の「一事不再理」を利用した映画として「情婦」(1957)や
証拠の不備を利用した「推定無罪」(1990)なる名作があった。
この「三度目の殺人」は真実よりも弁護方針や、陪審員
制度の中の訴訟経済を重視した裁判の矛盾である。
多摩川の河川敷で男が殺され、金を奪われ、ガソリンで焼か
れた。殺されたのは食品会社の社長、犯人は元従業員の
三隅高司(役所広司)ですぐ逮捕され、早々に白状した。
三隅は30年前に北海道の留萌で2人を殺し強盗殺人
放火罪で無期懲役で服役し、昨年仮釈放中の身である。
今回の2度目の殺人で死刑になることは間違いない。
国選弁護人に重盛朋章(福山雅治)が選任された。
彼は人権派でなくクールでドライな実績主義、国選は好ま
ないが、同僚弁護士(吉田鋼太郎)に頼まれたのだ。
公判の前の裁判官と検事、弁護士による事前整理手続
では、自白もあり「犯人性を争わない」ことも確認された。
接見すると、三隅は妙に達観したまるで「空っぽの器」の様な
不思議な男、話はコロコロ変わる、何と!被害者の娘、咲江
(広瀬ずず)とも接点があった。さすがの重盛弁護士も冷静
さを失っていった。
エリート弁護士福山のイライラ振りと、被告(役所広司)の
空っぽ振りが旨く、この対比が見ものである。役所広司は
これで2018年のアカデミー助演男優賞を獲得した。
第一回公判では、殺された夫の妻(斉藤由紀)に頼まれた
保険金目当ての嘱託殺人であると言い。第三回公判では
「殺したこと」も否定する始末で、裁判官の心証は悪化した。
突然の罪状否認で本来最初からやり直しだが、訴訟経済
を考え、このまま続行した。その上で被告の証言に信用性
はないとして「死刑の判決」が出された。
以下ネタバレゆえ、ご注意を!
この最後の公判の前、咲江が証言を申し出ていたのだ。
「実父から受けていたレイプ」と「自分を守るための殺人」と
いう証言であれば、情状酌量で死刑は免れていただろう。
三隅は敢えて「殺人そのものを否定」することによって咲江の
証言と公表を封じ込めたのだ。結果自分の死刑が確定した
のだ。これこそ自分への「第三の殺人」であった。
(是枝裕和)監督は賞とりの名人である。これで日本アカ
デミー最優秀作品賞、監督賞、脚本賞を独占した。更に
(広瀬すず)も助演女優賞で何と6賞と独占した。
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