いやはや久々に名作といえる映画を見ました。
まず映像の美しさ、否! 大自然の美しさに引き込まれてしまった。
そして男の世界、男の意地と責任、硬派な男たちの世界に引き込まれてしまった。
美しく広がる立山連峰に、黒い鉾先が天を刺す如く聳える剣岳、
その神秘さと、その脅威は 写真家ならばどうしても撮りたい被写体であろう。
しかし航空写真を一切使わず、実際にこの山を登山をしながら、明治時代の
初登頂の実話を映画化しようと思うことは正気の沙汰ではないし、不可能である。
しかし、いたのだ、そんな人が!映画名カメラマン(木村大作)氏だ。
写真家の性として、剣岳の険しい美しさを撮りたいとの思うのは当然だが、
長年の映画カメラマンとしての経験と執念が、自ら監督をしてまでこの映画
「剣岳 点の記」を作らせたのである。
カメラマン木村氏にとってこの映画が初監督となる。彼のキャリアを見ると、
撮影助手としてこの世界に入り、黒澤明の下で働き、その後カメラマンになり、
「八甲田山」'77、「復活の日」'80、「鉄道員」'99など50本の撮影をした
正に第一人者である。
映画製作の常套として、撮影はストーリーの順を無視して、後先関係なく撮る、
映画製作の効率、俳優のスケジュールを考えての事である。その常識を無視して
この木村監督は ストーリーの順通り、日々時が経過するが如く撮影したのだ。
俳優たちは山に入り、何度も山と戦う、顔は次第に日焼し、髭は伸び、衣服もよれ、
容易ならぬ大自然の脅威に、顔が険しくなっていく様を忠実にカメラは捕えていた。
実際に登山をしながら撮影する過酷さと、拘束されるスケジュールゆえ木村監督は
マネージャーを通さず、携帯電話で直接俳優たちに出演交渉したとのエピソードだ。
映画を見ているうちに思った、これはまるで黒澤明の名作「デルス・ウザーラ」'75
ではないかと?ちょうど同じ日露戦争の時である、ロシア沿海州の前人未踏の森林
地帯を探検していた。探検隊長アルセーニエフに(ユーリー・サローミン)、
そして案内人のデルス役はアジア系の(マキシム・ムングス)だった。
同じころ、日本では測量隊長・柴崎芳太郎(浅野忠信)と測量案内人・宇治長次郎
(香川照之)が同じく前人未踏の剣岳を目差していたことになる。
どちらも四季を通じて大自然の美しさととてつもなく厳しい冬を体験するのだ。
もっとも、こちらには立派な新田次郎の1977年原作がある。いままでに
「八甲田山死の彷徨」や「アラスカ物語」を読んだが、「剣岳」は未読だったので、
この際に読ませていただいた。映画とはありがたいものだ、次々と興味深いことに
つながって行くからである。
映画は本に忠実であり、特に(香川照之)は案内人長次郎を見事に演じていたし、
また柴崎の妻・葉津よ(宮崎あおい)は 「けな気で優しい」明治の妻を好演した。
本当に昔の日本女性は良かったのですネ
気骨のある男も減った、けな気で優しい女も見当たらない、明治は遠くなりにけり
ですナ・・・
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