昨年(2008)年9月末からアメリカ発の世界同時金融危機と世界同時不況が
勃発した。そして今、米国を象徴する自動車産業BIG3が危機を迎えている。
BIG3とは「ジェネラル・モーター」「クライスラー」そして「フォード」
正にこの時に、このタイトル「グラン・トリノ」とは「フォード」の1972年式
人気モデルの名車であるが、この映画にこの名を付けた映画センスに驚かされた。
この映画から、今の悩めるアメリカ市民の生活ぶりが垣間見えるからだ。
米国中西部、たぶん自動車産業の街デトロイトだろう、ファーストシーンは
妻の葬式から始まった。邦画「おくりびと」もそうだが、葬式ほどその家の
姿が判るものがない、このシーンだけで主人公(クリント・イーストウッド)
の人物像と二人の息子家族との関係を見事に描きだした。
やせぎすの苦虫を噛んだ顔、頑固でいやみ、ヘビースモーカー、道に唾を吐く、
町の嫌われ者だろう、唯一の理解者の妻に先立たれて、正に孤独な老人である。
朝鮮戦争(1950)に従軍したとういうから、78から80才過ぎだろう、除隊後は
フォード社の熟練工として生活を立てた。彼の息子がトヨタディーラーをして
いることが気に入らず「米国人が米国車に乗ったら罰でも当たるというのか!」
というセリフは正に今のアメリカ国粋主義的な本音であろう。
朝鮮戦争のせいもあるか、アジア人をイエローと呼び、黒人をクロと呼び、
ヒスパニックも軽蔑している筋金入りの人種差別主義者でもある。
もっとも町の牧師や息子夫婦や孫にまで毒舌を吐いているから、差別という
より超偏屈ということだろうか。
彼はデトロイト?の古い住宅地に住んでいる、白人達は既に引越して周りは
空屋だらけで、アジア人しか住んでいない。ここで何か米国自動車産業の衰退と
地域の崩壊を感じさせる。
そんな彼の家の隣にアジア人が引っ越してきた。インドシナのマオ族の人達だ
ベトナム戦争のせいで米国に移住せざるを得なかった民族。ある意味この映画は
米国の世界覇権の影の部を紹介しているとも言える。
当然、彼は苦苦しく忌み嫌ったが、欧米的個人主義の孤独な老白人は大家族主義
のアジア人社会に次第に関わって行くのだ。人間一人では生きてゆけない、今の
日本の老人問題、介護問題、ホームレスなども欧米的個人主義を追いすぎた結果
と思えた。
映画のクライマックスは省く、是非この映画を観てほしい、良くて面白い内容
最後は晩年の「ダーティーハリー」('71)だと思えばよい、しかし、ここでも
米国の銃社会の問題を考えさせれた。
C・イーストウッドの映画はエンターテインメントでありながら、毎回何か問題
提起してくれる。「ミリオンダラーベイビー」('04)が良い例、ボクシング映画で
ありながら尊厳死がテーマであった。
そして、なにより実年齢78歳!「ローハイド」('59)以来やや60年間も主役を
張れるバイタリティーがすごい。テーマを選べば、年寄り主役の脚本はなんぼでも
ありそうだ。
年寄りの星C・イーストウッド、正に主たるテーマは「老いてますます」だ。
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