この映画のテーマは一つでなく盛り沢山である、
この映画は横山秀夫氏のベストセラー小説「半落ち」の映画化、
半落ちとは、犯人から自白が取れたが、完全「完落ち」でないこと。
たしか週間文春2003年ミステリー・ベストテンで圧倒的なNO1になった
作品です。原作が優れていると、やはり良い映画が出来るのですネ。
私はこの映画、あの松本清張原作、野村芳太郎監督の名作「砂の器」
(’74) 以来の秀作と思いました。
「砂の器」は「ハンセン氏病」が重要な動機でした。
もちろん今は完治する普通の病気ですが、昔は「らい病」と呼ばれ、
不治の業病、遺伝し且つ伝染する病気として恐れられ、患者は離れ島に
強制隔離され、本人も家族もひどい差別を受けたのでした。
この「半落ち」は寿命が延びた現在、老齢化社会で発生する現代病
「アルツハイマー病」が動機そして「骨髄性白血病」も絡む。
あの「砂の器」の動機は何とも救い様のない「人間の業」でありました。
この「半落ち」の殺人動機も、その心情も重いものですが、
犯行から自首までの空白の2日間は犯人にとり、51才までは生き残る
決心をした動機付けの2日間であったのです。
この映画のテーマは一つでなく盛り沢山である、
それを流れの中で旨く表現している。
現代アルツハイマー病の実態、骨髄性白血病とその移植制度のルール。
尊厳死、安楽死、嘱託殺人、自白調書の適正手続き。
検察、警察の不祥事とその内部捜査制度、検察と警察の牽制。
マスコミの取材姿勢、警察のマスコミ対策、弁護士の名声主義。
世間の常識と裁判官の判断基準などなど
単なる犯罪捜査ものではなく、全ての登場人物がそれぞれ見事な
主役(一人称)として群像ドラマを作り上げていく面白さがあるのです。
犯人(主役)を取り巻く刑事、警官、検事、弁護士、裁判官、記者、
それぞれ真実追求を職務としているが、全員、心の奥には自分の出世と
保身が葛藤し渦巻いているのです。
殺人を犯した犯人(寺尾聡)はまるでイエス・キリストの如く神聖である。
しかし、その周辺の脇役は皆、苦しみ葛藤する人間たちなのだ。
そして彼らはその私生活まで垣間見せる不思議なドラマであった。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。