「暗い、しかし面白い!」
映画というものは、日頃の憂さを晴らすための「エンターテインメントで
あるべき」を信条とする私であるが、人間(自分)の愚かさや残酷さ
を暴き、憂さが益々増えるのも、これまた映画である。
原作が芥川賞作家(吉田修一)で、監督が(李相日)ですもの!
あの「悪人」2010で、暗さを極めたコンビですもの!「暗い」のは当然、
この「怒り」は朝日新聞に連載され、大反響を得て映画化された。
犯罪ものは実際の事件をヒントにすることがある、あの衝撃な事件、
「世田谷一家惨殺事件」2000年に家族4人を惨殺、家じゅう血
まみれにし、殺害後、家の中に10時間滞在、飲食し、シャワーして
逃走した。犯人はまだ見つかっていない。
この「怒り」も八王子で若夫婦が惨殺され、家じゅう血だらけ、犯行後
飲食とシャワーをし、壁に血で「怒りの文字」を残す異常な事件である。
それから、もう一つ「英国女性リンゼイ・殺人事件」2007年であるが、
市川市で英会話を教える英国人リンゼイさんを暴行し殺害し逃走。
犯人(市橋)某は二重瞼にする整形手術までして、土木作業員を
しながら全国逃走、最後は沖縄オーハ島のコンクリートの瓦礫に隠れ
自給自足の生活をしていたが、発見され逮捕された事件である。
この映画も整形手術するが、その顔が事件の犯人とそっくりなのだ。
また沖縄の離島に隠れ自給自足するなど、設定が同じである。
二つの異常な事件をヒントにしただけで、原作はオリジナルである。
犯人は早々判明した。(山神一也)27才、178cm、 逃走中に
整形手術し、その想像写真が全国に手配され、TVで流された。
二人の刑事(ピエール瀧)と(三浦貴大)が犯人を追う。
ストーリーは千葉、東京、沖縄の3つの場所でバラバラに関連なく
展開する。私の好きな群像ドラマであるが、この映画の様な手法は
今までに見たことが無かったものだ。
日本は島国、日本人は漁民、農耕民であったせいか、村意識が
強い。結果、移民や流れ者や素性が明らかでない人に対しては
警戒し、どっかで何かやらかし逃げてきた族などと疑う傾向にある。
洋平(渡辺謙)と愛子(宮崎あおい)の親子が住む千葉の
漁村に若い男(松本ケンイチ)がふらりと現れ、アルバイトで
良いから漁港で働かせてほしいと頼まれた。
東京の大手の通信会社に務める優馬(妻夫木 聰)はゲイで
ある。彼は時々見知らぬ相手と一夜を楽しみ、それで終わる。
どういう訳か?誰か判らぬ直人(綾野剛)と暮らすことになった。
度たび男と問題をおこす母、その度に引っ越しを繰り返す母と
高校生(広瀬すず)は福岡から沖縄に移り住んだ。ある日
無人島に隠れ住んでいる男(森山未来)に遭遇した。
この三つの場所に住む住人(それぞれの主役たち)に起こる
出来事は、暗く、身につまされる事ばかりである、辛い辛いで、
この風味は(吉田修一)の真骨頂といえる。
そして彼らの前にふらりと現れた素性の判らぬ若いよそ者が、
もしかして、あの殺人犯でないか?と疑念を持ちはじめた・・・・
いや面白い、小説も良いが、監督の適格な配役とその役者の
演技力で素晴らし映画が出来上がった。 お勧めの映画です。
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