昔、私の家にも女中さんがいた。
本当に小さい時と、小6の時からと二人の女中さんを記憶している。
当時の私の家は祖父母、両親、子供4人と大家族である。会社の人が
頻繁に出入りする、親戚も知り合いもしょっちゅう泊りに来る。
今の様な電気製品があるわけでない、炊事、洗濯、掃除と膨大な家の
量であり、女中さんなくてはとても生活が維持できない家であった。
この映画を見て小さい時のことを思い出した。映画の家の子供(恭一)は
まるで私だと思った。親に叱られた時はよく女中さんの部屋に逃げ込んだ
ものだ。この映画「小さいおうち」の如く、女中さんは優しいのだ。
さて山形の田舎から女中に出されたタキ(黒木華<はる>)が奉公した
家は東京郊外の赤屋根の新築の家、小さいながら、ステンドグラスも
ある昭和モダン様式の家であった。
主人の平井(片岡孝太郎)はおもちゃ会社の重役で当時の新興中流階級
といえるだろう、そして美しい妻の時子(松たか子)そして一人息子の
恭一と住んでいた。
時は昭和11(1936)年ころ、日本帝国が中国に侵攻し満州国をつくり
2・2・6が起こった年だ。正月、この家に集まった会社の人たちの
談笑話を聞くと、東京オリンピックの決定(後に中止)に喜び、日中戦争
など早々に終わると軽く考えていた様だ。
そして南京が陥落するや提灯行列をし、銀座デパートでは大売出しで戦勝
気分、首相の近衛文麿は賢い男ゆえ「米国と戦わず、これで戦争を終わら
せるだろう」と喜んでいる始末。
どうも一般国民は深刻に考えていない、戦時といえまだ生活に余裕が見られる。
しかしこの後、太平洋戦争に突入し、歴史は着々と破滅の道を進んでいたのだ。
そんな中、時子は夫からデザイン担当の部下、板倉正治(吉岡秀隆)に縁談を
進める役を命じられ、しぶしぶ男の下宿を訪問した。前から板倉に好感を抱
いていた時子は、何とも!この下宿で板倉と密なる関係となってしまった。
密会を続ける時子、心配し悩む女中タキ、この映画は対照的な二人の女の
対比に尽きる。
良家の出であり、人を惹き付けてやまない、何か危なっかしい時子、和服姿も
昭和モダンの洋服も着こなす(松たか子)の美しさに魅了された。
田舎の出で、素直で控えめで賢い娘のタキ、けなげな女中振りでなな何と!
3大映画祭のベルリン国際映画祭(最優秀女優)銀熊賞を受賞してしまった。
(山田洋次)監督作品だが「母べい」2008に次ぐ戦争中の国民の暮らしを
詳細に表現し、そして戦争がもたらす悲劇を表現した。
どちらも戦闘シーンは無いが、本当の戦争の怖さを感じる映画である。
原作は中島京子さん、2010年本作で第143回直木賞を受賞しています。
コメント
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