演技力(演出力)、意気込み、映画の質の高さ、作品のテーマから
総合的に判断して、現在ナンバーワンの俳優と監督は?と聞かれたら、
俳優はレオナルド・ディカプリオ、監督はクリント・イーストウッド
と答えるだろう。
この二人が組んで映画を作ったら、それは半端な映画にはならない!
という訳で「J・エドガー」(2012)に一言、
J・エドガーとは(ジョン・エドガー・フーバー)、所謂FBIの
フーバー長官のことである。彼は学卒後司法省の諜報部門に入省した。
めきめき頭角をあらわし、FBIを創設し、初代長官に就任した。
果して、FBIを米国の犯罪捜査と諜報活動の巨大組織に成長させた。
爾来48年間長官として君臨した。これ公務員ではありえぬ長さだ。
8人の大統領に仕えたが、どの大統領も彼の首を切れなかったのだ。
それは大統領や多くの要人を徹底的に調べあげ、スキャンダルを記
した秘密のファイルを持っていたからだ。
人間というものは誰でも絶対知られたくない秘密を一つや二つ持って
いる、特に自分の性癖、不倫、交友関係、過去の犯罪暦など、社会的
地位のある者、高名な人ならばそれらが暴露されれば失脚間違いない。
どの大統領も弱みを握られ、彼を恐れていたからだ。
フーバーは間違いなく愛国者である、国家の保全を第一と考え、犯罪者
摘発のために現在の犯罪捜査の基礎(現場検証、指紋採取、筆跡鑑定と
情報のデーター化)を作った功績は大である。今米TVで流行のCSI
マイアミ・NY、日本TVでは沢口靖子の「科捜研の女」や内野聖陽の
「臨場」などの証拠主義、科学的捜査はフーバー時代に作られたものだ。
しかし情報収集はどんどんエスカレートし盗聴盗撮、徹底的に調べ
相手の弱みを脅して自分の意に従わせた。人間というものは権力を
握るとどんど増長する。彼は独善的独裁者に成長して行った。
彼の私生活は秘密のベールである、何故このような人間が形成された
のか? 何故結婚しなかったのか? 母との密なる関係、性癖、そして
闇社会との交流など、イーストウッドの手法「語らないエピソード」で
淡々表現し我々に示唆した。本当にイーストウッド監督は旨いですワ。
そして、この複雑な性向の権力者を、それも青年期から77才の老境に
至るまで、デカプリオの鬼気迫る見事な演技に脱帽するばかりである。
この映画を見て、米国9・11米国同時テロを許した国家と捜査機関の
怠慢を「それ見たことか、決して油断するなと言ったはずだ」と草葉の
陰で言っているフーバーの顔が目に浮かぶ。
国家の安寧のため許される国民総監視と個人情報保護や個人の自由は
永遠にぶつかるテーマである。
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