今、日本映画界では藤沢周平ブームと言えましょう。
ブームのきっかけを作ったのは、名匠・山田洋次監督の時代劇
三部作の大ヒットによるものです。
山田監督初時代劇と銘打ち「たそがれ精兵衛」'02を大ヒットさせ、
その後は「隠し剣 鬼の爪」'04「武士の一分」'06と製作した。
他の監督も次々と藤沢周平時代劇をつくった。
「蝉しぐれ」'05 、「山桜」'08、「花のあと」'10そして2010年に
今作の「必死剣鳥刺し」を平山秀幸監督が「山桜」に引き続いて
製作した。これらの作品もヒットしていると聞く。
なぜ藤沢周平ものはヒットするのか?
藤沢時代劇の主役は信長・秀吉などの英雄でもなく、黄門などの
お殿様でもなく、また気ままな剣客・退屈男や桃太郎侍でもない。
下級武士や市井の人が主役である。生活は貧乏苦しい、藩主や上司の
理不尽な命令にも忠実である、正に現代のサラリーマンそのものである。
そして藤沢作品にはその男を支える良い女(正に理想の女)が必ず
登場するのだ。
低成長時代、格差時代の現在と同じ、生活は苦しくとも、筋を通す男と、
やさしく健気につくす女の姿に共感するのだろう。
「必死剣鳥刺し」は隠し件孤影名抄という剣豪短編集の中の一遍である。
兼見三左エ門(豊川悦司)は280石の禄をいただく海坂藩士、物頭で
位からいうとめずらしく中の上である。
たそがれ精兵衛(真田広之)さんは足軽で50石、鬼の爪の片桐宗蔵
(永瀬正敏)さんは35石、武士の一分の三村新之丞(キムタク)さん
は30石と極貧だった。
よって「鳥刺し」は他の作品の生活苦=清貧のシーンが無い、
もう武士道の貫きを主眼に置いている。
三左エ門は藩の行く末を考え、死を覚悟し藩主の愛妾を城中で刺し殺した。
能の舞を堪能した後、突如刺殺する冒頭シーンにより画面に引き込まれた。
当然断罪になるところだが、1年間の閉門のみ、後再び藩主の傍らに仕える
という寛大な処分となった。
誠に異例のことであるが、これには中老・津田民部(岸辺一徳)の思惑が
あったのだ。三左エ門の剣の腕前はいずれ権力闘争に使えると考えていた。
三左エ門の家は妻亡きあと妻の姪・里尾(池脇千鶴)と二人暮らしである。
里尾は献身的に三左エ門の世話をする。この関係がネ、男女二人きりの家
の中で武士道ストイック的我慢が面白い。この辺の男女関係は藤沢全編に
共通している。
たそがれも、鬼の爪も、蝉しぐれも同じだがストイック・ストイックした上、
最後には男女となる!のが藤沢の良いところだ。
おろかな藩主・右京太夫、権力欲の家老たち、無理難題を命じられる
主役の下級武士、そして男を支える良い女、藤沢周平が庄内の故郷愛から
造形した「海坂藩」で繰り広げられる時代劇は、例外なく面白い。
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