戦争映画で、一番恐ろしいのは戦場で飛んでくる弾でもなければ、
ミサイルでもない、それは捕虜になった時どうされるかの恐怖だ。
というわけで「マイ・ブラザー 原題 Brothers」(2010)に一言。
アメリカの猛爆撃によりアフガニスタン山岳に潜むのアルカイダは
一時壊滅状態だったが、ゲリラとして生き残り反攻し始めていた。
米国海兵隊員サム・ケイヒル(トビー・マグワィア)はアルカイダの
奇襲で部隊が全滅し、部下と二人捕虜となり砂漠の小さな穴に数ヶ月
放り込まれた。
なにしろ相手はアフガニスタン人、言葉もわからぬ、宗教も異なる、
9・11の米国同時テロの如く自爆テロも厭わぬ人種であるし、
無慈悲に誰でも殺す。しかもアメリカ人に家族や同胞が殺された今、
憎しみの固まりになっているはずである。
キリスト教の白人にとって、得体の知れぬアジア系やイスラム系の
思考や行動様式は全く理解できぬ分、恐怖の極みであろう。
古くは「戦場にかける橋」'57の日本兵、「ディア・ハンター」'78の
べトコン、「地獄の黙示録」'79の原住民、「キリング・フィールド」
'84のカンボジア兵などなど、白人にとり不気味で恐怖の人種のはず。
やはり極みは「ディア・ハンター」だろう、捕虜同士をつかって、
一発の銃弾を入れたピストルをこめかみにあてて引き金を引き合う
「ロシアン・ルーレット」を賭博として楽しんでいたシーンは、私に
とって忘れることのできない強烈な印象が残っている。
果たして捕虜となった二人は、アフガニスタン人から過酷な扱いを
受け続ける、もはや彼らの気晴らしの道具であった。そして二人に
殺し合いを命じた。突然彼は部下を撲殺したのだ、生き残るために。
アメリカ軍の攻撃により彼は奇跡的に救出された。戦死者となって
いたサムの生還に皆は驚いた。しかし彼はアフガンのことを全く口に
しなかった。そして彼の性格は全く別人になっていた。
妻(ナタリー・ポートマン)と幼い二人の娘はサムの生還を喜んだ。
しかし性格の変わった彼に対し幼い娘たちは恐怖を覚えていた。
そして妻と彼の弟(ジェイク・ギレンホール)と間を疑っていた。
戦場から生還したサムは本来のサムに正環(もどれる)のだろうか?
戦争というものは如何に人間を傷つけるか、如何に家族を悲しませる
か。人間ドラマの名匠、ジム・シェリング監督が見事に画き出した
家族のドラマ、秀作でありますDVDでご覧下さい。
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