アメリカのロードムービーが好きな私には、たまらなく好きな映画だった。
「クレイジー・ハート」2010年上映 に一言
ステーションワゴンの車に楽器とアンプを積んで、興行主からの携帯で
次の行き先を告げられるまま、広いアメリカ、州から州へと演奏して歩く。
主役は私と同じ初老の男、かっては一世を風靡した人気のカントリー奏者
だったが、新曲も出せず、酒に溺れ、たばこに浸り、行く先々で土地の女と
楽しむ自堕落な生活をしている内に、音楽の第一線から落ち、今や田舎の
ドサ廻り興行をしている。
妻と男の子がいたはずだが、家庭を捨て、もう数十年音信不通である。
しかし何処へいっても栄光時代のオールドフアンがいるし、一夜を求める
中年の女性たちもいた。
ある町で、地元紙の女性記者から取材インタビューを受けた。この若い女と
話すうち孤独な57歳の心の中に変化を感じた。一方、仕事と子育に一生懸命
生きているシングルマザーの女性記者も、なにか男に寄り添いたいと感じた。
男は女のために酒を絶とうと努力するが、長い間染み付いた自堕落さは
そう簡単に流し落とせない。
そして女にとって最も大事なことは子どもを守ることであった。
孤独な中年男は、自分の再生をかけて新曲をつくり始めた。
全編にながれるカントリーの調は哀愁たっぷりである、燦燦と太陽が降り
注ぐ砂漠のフリーウエイを横切り、田舎町のモーテルを渡り歩き、場末の
バーで歌う、画面からむんむんと酒とタバコの体臭が漂ってくる様だ。
我々中高年にとって、会社や家庭のしがらみの無い放浪生活は理想だ、
この男やフーテンの寅をうらやましくも思ったが、反面孤独に耐えねば
ならないし、これ以上歳をとると野たれ死になるかもしれない。
仕事(音楽)はできるが、だらしない中高年男をたっぷり見せてくれた
ジェフ・ブリッジスは、堂々のアカデミー主演男優賞をもらった。
女の魅力(色気)と母の強さを見せてくれたマギー・ギレンフォールは
旨い女優だ。
そして全編を流れるカントリーソング「The Weary Kind」にアカデミー
歌曲賞が与えられた。
中高年のだらしない男、再生のための必見の映画ですぞ。
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