映画の魅力を知り尽くし、作り方を熟知したムービーメーカー
(C・イーストウッド)ならではの秀作!
ジャズギターの爪弾きの音、モーガン・フリーマンの静かで深い声、
ボクシングの何たるかをモノローグするところからこの映画ははじまる。
全編を通じ、このジャズの音色とモノローグが映画に何ともいえぬ
ゆったりした情緒を醸し出していた。
ロスアンゼェルスのダウンタウン、レンガ倉庫に設えた古く小さな
ボクシングジム「ヒット・ビット」、使いこんだボクシング用具と
古いリングがあり、スパークリングに励む男たちがいる、そしてその
片隅でもくもくと一人でアーム・パンチしている女がいた。
そもそもボクシングは男の格闘技である。女も格闘技に参加する時代だが、
顔を狙って殴りあい、鼻を潰しあう格闘技となると女がすべきものでない。
それから試合中は鼓舞の意味も込め、いわゆる「下品ことば」連発の世界、
これはセックスハラスメントの極み、女にとって相応しい場ではない。
この小さなジムの所有者兼トレーナーの老人フランキー・ダン
(クリント・イーストウッド)が女からボクシング・トレーナーを
頼まれても断り続けていたのは上の理由と、女も32と若くなかった。
しかし女マギー(ヒラリー・スワンク)は執拗に食い下がり、また彼女が
時々見せるボシングセンスに惹かれたのか、遂にトレーナーを引き受けた。
果たして、フランキーの指導のもと、めきめきと腕を上げ、結果試合も
連戦連勝、遂に大金を稼ぐミリオンダラー・ベイビーへの道を登り続けた。
そしてチャンピオン・シップ、いよいよタイトルに手というところで・・・
いやぁ~面白い、これぞ映画!
ストーリーは誠にシンプルなのですが、こんなに短い時間で内容が濃密である。
もちろんボクシング試合は迫力満点、スリリングなシーンでワクワクできる。
しかし後半はがらりとテーマが変わり人間の尊厳がテーマとなり、すごく
重いテーマに身体中ふるえました。
つまり前半・後半まったく異なる2本立て映画の様相となっているのです。
さらにフランキーの人生、マギーの家族、雑役夫(M・フリーマン)の人生
が映画の要所に垣間見せ、立派な人間ドラマをつくり出している。
監督は演じる者の、内面的な魂を引き出すかをも、心得ているのです。
この映画を見ていると人間というものは、つまるところ寂しく一人である。
しかし他人であっても、心が通じれば家族同然になれるということか?
原作本を見ておどろいた、なんと短い!F・X・トゥール氏の6篇から
なる短編集からミリオンダラー・ベイビーと他作品からのエピソードを
引用し映画を作り上げたものだ。この作者は若いときから遍歴人生で
なんと50才からボクサーを目指した変わり者、挑戦と挫折の繰り返し、
よって結果は挫折する作品が多いが、今回映画で人生の最期にはベスト
セラー作家となった様だ。2002年昇天されました。
「ミスティック・リバー」に続き、映画の魅力と知り尽くし、映画の
作り方を熟知したムービーメーカー(C・イーストウッド)ならでは
秀作!
アカデミー賞主要4部門独占だったが、今回はイーストウッドさんに
主演男優賞を差し上げても良かったほどの演技と思いましたヨ。
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