9月になったし、私の8月15日終戦シリーズも終わりだなと思いま
したが、最後に今上映中の「終戦のエンペラー」(2013 8月)について
だけは、どうしても書かなきゃと思い一言述べさせていただきます。
昭和20(1945)年8月15日、天皇の玉音放送により日本の戦争は終結
した。それを受け8月30日、連合軍最高司令部(GHQ)最高司令官
ダグラス・マッカーサー(トミー・リー・ジヨーンズ)が神奈川県厚木
海軍飛行場に到着しコーンパイプを銜えてバターン号から降り立った。
彼の任務は「円滑なる占領政策」と「戦争犯罪人の訴追」であった。
日本帝国憲法における天皇は軍の統帥権を持つ国家元首であり、日本軍
の最高責任者である。
この形而的立場からいうと天皇は戦争の最高責任者として訴追される、
しかも訴追されれば処刑は免れないことになる。
また立憲君主ゆえ、議会の決定には必ず従う立場だったとして法的に免責
されても多くの犠牲を払った道義的責任があり訴追されることもあろう。
訴追され処刑されれば、日本人の感情は一挙に悪化し反乱と暴動が勃発し、
米兵の犠牲と占領政策に大きな支障が出る、マッカーサーの本心は速やか
且つ円滑な占領行政の終結であり、よって天皇の戦争責任訴追を回避した
いと思っていた。
そこで彼の腹心ボナー・フェラーズ准将(マシュー・フォックス)に天皇および日本
首脳の戦争責任の調査を命じた。何故彼か?彼が知日派・親日派であることを知っ
ていたからだ。何ゆえ親日派か?彼には島田あや(初音映梨子)なる恋人がいた。
当時、合衆国政府も連合国各国も天皇を戦争責任者として裁判に掛け処刑すべき
との考えが主流であったし、GHQ内部もその考えを持つものが多くフェラーズは
冷たい目で見られていた。さらに恋人島田あやの安否が心配であり、正に孤立無援
の状態であった。 フェラーズは天皇の戦犯訴追回避させるために奔走した。
歴史が示すとおり、天皇の戦犯訴追は回避され、新しい日本国憲法により天皇制
は維持された。この映画を見る限り、これは奇跡といってよいかもしれない。最高司
令官マッカーサーの思惑(大統領選)とフェラーズという親日家がこの件の担当将校
であったこと、そして、国際力学と政治的な決定が優先されたということであろう。
原作は(岡本嗣郎)の「陛下をお救いなさいまし 河井道とボナー・フェラーズ」
だが、この映画原作というより参考文献というものだろう。
映画には全く出てこないが(河井道)さんは凄い人だ。伊勢神宮の神主の娘で
あったが、一家が北海道に移住し、道は札幌のスミス女学院(後の北星学園大)
の初代学生となり、サラ・C・スミス女史の教えを受ける。そして何と!そこで
北大の教授をしていた新渡戸稲造の教えを受け、新渡戸家族と共に渡米し女子
大を卒業し、帰国後にYWCAの設立や恵泉女子学園を創設した人である。
フェラーズは河井道の意見を取り入れて天皇の戦犯問題について不起訴を進言
する覚書を作成したのである。またフェラーズは小泉八雲の信奉者であった。
米国で活躍するプロデューサー(奈良橋陽子)の祖父が当時の天皇の宮内省側近
「関谷貞三郎」(夏八木勲)であったことから強い製作意欲となった企画である。
日本にとり重大な歴史であるが日本ではタブーの世界、映画化できるものではない。
アメリカゆえ映画化できたものと思います。監督にピーター・ウエーバーを擁し
たアメリカの尊大さを抑制し、日本に配慮した秀作です。
つくづく感じました。 映画は雑学の宝庫でありますネ
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。