「幽霊がアリバイ証言のために裁判の証言台に立つ」
こういう大胆な設定の喜劇は日本映画には少ない。
最近の日本映画における喜劇は日常の私小説的出来事を
題材にしたものばかりである。それはそれで面白いのだが、
(三谷幸喜監督)は舞台演出出身ゆえの現実離れした突飛な
ストーリーこそが喜劇の本質と思っているかもしれない。
彼の映画の風味は、毎回切り紙のアニメ的なタイトルを使用、
登場人物も皆やや誇張されて楽しいキャラクターであるゆえ、
まるで今から50年前の高度成長期の東宝喜劇を彷彿させて
明るく楽しい映画である。団塊の世代に好まれる映画と思う。
法廷に寝坊して遅れるほどのドジな弁護士に(深津絵里)
現実の世界ならとっくにクビだろうが、この映画では上司
(阿部寛)も対決検事(中井貴一)も裁判官も大目に見て
くれるのがホノボノとして嬉しい。
さて幽霊であるが、421年前無念の死を遂げた落武者更科
六兵衛(西田敏行)は成仏できずさ迷っていた。ある夜中
殺人事件の容疑者を金縛りにしていたため、彼のアリバイ
を証明できる唯一の証人となり証言台に立つ破目となった。
ある意味ばかばかしい設定だが、最後まで「これありか?」
と思わせるのが辣腕検事の(中井貴一)の旨さによるものだ。
「絶対あり得ないし、こんなのナンセンス無効だ」と全面
否定しつつも、幽霊とドジな女弁護士に心底では善意であった。
これは映画を見る観客も同じ立場で同調してしまった次第
中井貴一は往年の二枚目スター故・佐田敬二の子息である。
男前では父に劣るが、現代映画で「表面は冷徹で内面優しい男」
を演じさせたら彼の右に出る役者はいまい。
三谷映画には往年の映画エピソードが多々出てくる
有頂天ホテルにおけるE・グルーディングの「グランド・
ホテル」'32、マジックアワーにおける「カサブランカ」'46
そして今作はフランク・キャプラの「スミス都へ行く」'39
と映画ファンならニヤリとする仕掛けである。
お勧めの映画です。どうぞ劇場へ・・・
そういえば三谷幸喜は小林聡美と別れた由、才能ある者同士
の素晴らしい夫婦と思っていた内の女房は「三谷さんも只の
男だったのネ!」と嘆いておりましたゾ。
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