凄い映画を見たというより、凄い女優もいるなと感じた映画。
寺島しのぶという女優は、見る映画によって美しい女に見える時と、
ちょっといびつな顔の土くさい女に見える時と際立って異なる。
今作「キャタピラー」は正に後者である、そうだろう戦中の農村の女
である。衣装はもんぺ、割烹姿、裸の三つしかなくそれにふさわしい
顔になっているのだ。
出征していた夫が、帰郷した、傷痍軍人として・・・
両手両足を失い、声帯を失い、顔の半分が焼け爛れた、肉の塊、
達磨の様な姿である。
あまりに無残、あまりに醜い姿に、迎えた父親や姉は驚愕する。
妻シゲ子(寺島しのぶ)は恐怖で泣き叫び水田に座り込む。
戦中の習いとして、夫久蔵(大西信満)は武勲を讃えられ
「生ける軍神」として村人に崇められる。そして妻シゲ子には
家族からも村人からも軍神の妻として貞淑に夫の世話をすること
を強いられた。
シゲ子にとって辛く過酷な介護の生活がはじまった。
獣の叫びの様なうめき声で要求する、あるのは食欲と旺盛な
性欲だ。シゲ子を欲しくなるともんぺの紐をかじり求める。
「食べて寝て 食べて寝て 食べて寝てばかり」の台詞通り、
蚊帳の中のその行為は、うごめく芋虫の如くである。
シゲ子の心に憎しみが生まれていた。出征前夫から「うまずめ」
として虐待を受け、義父母から離縁も仄めかされ虐げられていた
からだ。絶望の介護生活の中に久蔵を甚振る行為も生まれていた。
そして久蔵の方も変化が起こっていた。大陸で中国女たちを
犯し殺した蛮行の記憶が蘇り、隠蔽のため火を放った家で自ら
大火傷を負い、こんな体になった恐怖に苛まれて発作を起こし、
苦悩で土間をごろごろのたうちまわるのだ。
1945年広島に原爆が落とされ、いよいよ敗戦色が強くなってきた。
この映画で、人間というものはその中に残酷と優しさの両方を
併せ持つ生き物と実感した。そして戦争はだめだという気持ちに
なる正に反戦映画です。監督はあの若松孝二さん、私らの青年
時代にエロ・グロ映画を作り続けていた人、よく大学の廊下に
自主上映のポスターが貼ってあったと記憶。
そしてこの映画で寺島しのぶさんは2010年ベルリン国際最優秀
女優賞を(銀熊賞)を見事受賞しました。
低層の役でも淫乱な役でも、今作の如く救われない役を演じても
「根の良さ」が滲み出てくる女優「寺島しのぶ」は凄い役者だ。
父親は尾上菊五郎、母は富司純子だ、やはり血は争えない
コメント
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