今回 「おとうと」2010を観ました。
山田洋二監督 吉永さゆり主演の「家族愛もの」映画だが
この映画のことを述べるならば、前作の「母べえ(かぁべえ)」'07
のことを書いておかねばと思い投稿した次第。
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「見たら書く」というルールがありながら今まで書かなかったのは
あまりにも戦争の悲しみが身に沁みて書くことが出来なかったからです。
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私の父も徴兵されて戦地北方千島に赴いたが、幸い生還した。また家が
田舎ゆえ戦争被災もなく家族も無事で済んだ。結果私が生まれた訳だが、
戦争無縁な私にとって、戦争の悲しみは論ずるに辛いものがあったのだ。
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戦争の悲しみといっても、この映画は戦闘シーンや、戦争被災のシーンが
出てくるわけでない、戦時中の野上家の生活を淡々と画いているだけ。
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また特別、悪役や敵役が出て来て、この家族を苛める訳でもない、むしろ
この家族を案じていろいろ世話を焼いてくれる人たちが登場するのだ。
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戦争の直前、昭和15年、文学者野上(坂東三津五郎)は反戦思想者と
して特高警察に逮捕された。残された妻佳代・母べい(吉永小百合)と
二人の娘、初子(初べい)と照美(照べい)は、戦時体制に入った世相の
中で女ばかりの不安の日々となる。
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この家族を心配して、書生(浅野忠信)義妹(壇れい)叔父(笑福亭
鶴瓶)が取り巻き、野上家を支えてくれた。その人間味が誠に宜しく
この「家族愛」こそが映画の主たるテーマである。
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そんな野上家の愛する者は皆死んで行く、夫は獄中で死に、叔父は
行方不明、書生は戦死、そして義妹は広島原爆で死んだ。
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山田洋二監督はあえてそれを映像にしない、日々の生活の中で、
その訃報が伝えられ、それを家族が受け入れていく。そのシーンこそ、
もう一つのテーマ「戦争の悲しみ」を伝えるに十二分であった。
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この原作は次女(野上照代)の自伝的小説「父へのレクイエム」である。
野上照代さんといえば黒澤明監督のスクリプター(映画記録係)として
良く知られており、それこそ名作「羅生門」'50から現在の黒沢的作品
「阿弥陀堂だより」'02まで製作にたずさわっている人。
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正に黒澤明の全てを承知している人だろう、
彼女の本「蜥蜴の尻っぽ とっておき映画の話」(文藝春秋、2007年)
は興味深い内容、一見の価値あり!
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この映画の(吉永小百合)の無条件にやさしい母の姿と鶴瓶のふーてん
振りが次作「おとうと」の製作につながって行ったと推察した。
コメント
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