藤沢周平の小説くらい、読む人によって好きな作品が異なる
ものは無い、それは男の立場、女の立場、父、母、子の立場で
それぞれがシンクロする所があり、それぞれ異なるからだ。
それでも最も多くの人に読まれた代表作というと「蝉しぐれ」
だと思う。今まで藤沢周平小説映画の感想を書いてきたが、
やはり、最後は「蝉しぐれ」を書かねばと、変な義務感を持った
次第。
舞台はやはり東北の小藩「海坂藩」(藤沢周平造形の場所である)
下級武士でありながら、藩の土木に責任を持つ父・助左衛門
(緒形拳)を息子・文四郎(石田卓也)は心から尊敬していた。
しかし父は藩の内紛に巻き込まれ切腹を申し渡されたのだ。
父との最後の面会の場面は、涙なくしては見られなかった。
父は「文四郎はわしを恥じてはならん」との言葉をのこした。
父の遺体を引き取り、ひとり大八車に乗せて運ぶシーンが
この映画の主題であろう。すべる坂道で後ろから一心に押す
(ふく)がいたのだ。
人間は幼い時に好きになった異性を忘れず、どこか引きずって
いることがあるが、幼なじみであった文四郎とふくは、遠く離れ
ばなれになっても心に想いつづけていた。
この映画コピー「20年、人を想いつづけたことありますか」が
この映画のテーマ
しかし運命のいたずらか文四郎(市川染五郎)藩士と
ふく(木村佳乃)は殿の側室という立場になっていたのだ。
そしてラストシーン、おふく様が殿の菩提を弔うために髪をおろす
前の日、二人はひっそりと湯宿で会った。
「文四郎さんの御子が私の子で、私の子が文四郎さんの御子である
ような道はなかったのでしょうか」・・・・
そして二人は思い残すことのない行為を遂げた。
いやぁ~藤沢小説は文脈の中に究極のエロスがあるのです。
映画の方は、ここをなんだかはっきりせずに終わりましたのが
誠に残念。
コメント
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